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特別編:介護日誌

2/10(水) 介護三日目
 今週は通常どおり、火曜日に甲府入りして、水曜日一日向こうで過ごした。火曜の夜はマナちゃんは出かけていて、叔父ちゃんの奥さんの義江さんが迎えに来てくれた。
 私も少し疲れがたまっているのか、今回はコタツでテレビを見ているうちにウトウトしちゃった。

 水曜日、朝はちょっと寝坊しちゃって、朝食抜きで出かけた。肺の様子がよくなってきたということで、ゼリー状のものなら食べてもいいということになり、病院に行く前にスーパーに寄って卵豆腐とプリンとゼリー、そして舌の運動のために舐めさせるようにと言われた、棒付きキャンディーを購入。

 この一週間の様子を聞くと、熱は下がっていて、体の調子は良くなっているはずなのに、叔父ちゃんの反応はますます無くなっているとのこと。どうやら、熱が下がって、改めて自分の体が動かないことにショックを受けているようだ。

 マナちゃんの話によると、元気な右手で鼻から入っている流動食用の管を抜こうとしたらしい。「抜いちゃ駄目!」と言うと、驚くほどはっきりと「だって、自分はこんなに管だらけになってまだ生きていたくないんだ」と言ったそうだ。これにはマナちゃんもさすがにがっくり来たって。
 「あのねぇ、パパ。これは生命維持装置じゃないんだから、抜いたからって死ねるわけじゃないの。また入れるために苦しい思いをするだけだよ」と説得したらしいけど、叔父ちゃんが悲観的な心境になっているということがはっきりとわかった。

 それでも私が行った時は、それまでの一週間に比べて明らかにいい反応を示してくれる。今までの3回を比較すると段々と元気がなくなってきており、毎回口数は減っているけど...。

 今日のイベントは「卵豆腐」と「チュッパチャプス(アメ)」。卵豆腐は叔父ちゃんが久々に口から摂取したもの。本人も久々の“味覚”を楽しんでいた。
 一口食べてもらい、飲み込みもうまくいっていると確認した後は、自分の手でスプーンを口に運んでもらった。多少不安定で、時折介助を必要とするものの、ちゃんと手の動きに合わせて口を明けていた。どうってことないことに聞こえるかもしれないけど、脳の障害ってもんは、こんなシンプルな動きも不安定なものにしてしまうんだ。

 アメの方は、甘いものが嫌いな叔父ちゃんにはどうかな、と思っていたけど、結構喜んでもらえたみたい。顔は右半分がマヒしているため、右側の頬に入ってしまうとちょっと引っ掛かってしまうみたいだけど、おおむね上手に舌で転がして、おいしそうにやってました。ちゃんと手を添えて、くるくると回して。

 「アメを食べた後は歯磨きをしなくちゃ」ということで、マナちゃんが歯磨きをすると、右頬の中から卵豆腐のかけらが出てくる。やはり口の中の機能も100%ではないということの証明となった。

 2時間おきの体位変更の後、「さて、何をしようか」という感じになり、水分補給のための「氷」、「アメの続き」、「歯磨き」という3つの選択肢を挙げて、「番号で答えて」と言うと、ここではちゃんと「さん」と声が出た。
 アメが持てるんだから大丈夫だろう、と今回は自分で歯ブラシを持ってもらった。きちんとまんべんなくできるわけじゃないけど、「自分でやる」ということが大事だから、気の済むまでやってもらった。

 それから今日はひげ剃りも自分でやった。これは前回も出来たこと。前回、私が帰る時に、「今週の課題はひげ剃りは自分一人でできるように、ね」と声をかけて帰ったので、そこでの前進を期待していたんだけど、この一週間はまるでやる気が見られなかったということなので、せめて前回と同じ程度のことができる、ということが確認できてよかった。

 口数が少なくなっているのは気になるが、これは多分、「やる気」の問題が大きいんだろう。でも、たまにしゃべろうとした時に音にならないのはどうしてだろう? 今までは音になったりならなかったりだったけど、今日は耳を近付けずに聞き取れた言葉はほとんどなかった。お腹の筋肉が弱って来ているのかな...。

 かすれ声ながらも今日、しゃべってくれた言葉は:
  • 「おかえり」
  • (昼食から戻った時)
  • 「聞いてるよ」
  • (「テレビ、聞いてる?」の問いに対して)
  • 「かゆい」
  • (「かゆいの?」と問いに対して)
  • 「さん」
  • (前述の選択肢提示に対して)
  • 「ヒゲ」
  • (口元を気にしていたので尋ねると)
  • 「出ない」
  • (「タン、出た?」の問いに対して)
  • 「来ない」
  • (「リハビリの先生、来た?」の問いに対して)
  • 「ちょき」
  • (「OK?」の意で「グー?」と聞いた時)

     最後の「ちょき」は本日のギャグです。時々こんなギャグを言うみたいだけど、この時は手の振り付きで、「ちょき。ぱー」と続いた。絶望的な気分になっていた矢先だったので、これにはマナちゃん、「それでこそパパよ!」と大喜び。

     来週の月曜日に飲み込みの様子を撮影して検査する予定になっていて、その検査でいい結果を出せれば鼻の管が取れて口からの食事に切り替わるとのこと。
     普段は看護婦さんや先生が来ている時に限って眠っていたり、起きていても反応がなかったりして、こちらとしては「先生にいいところを見せたい」という思いが募っていたところ、今日は上手に卵豆腐を食べたりアメを舐めているところが見せられて大満足。

     今日はようやく、リハビリ病院への紹介状も書いてもらった。実際にはまだ移せる状態ではないけど、紹介状を持ち込んでも、あちらのベッドが空くまで1〜2か月待たされるという話。
     リハビリは一日でも早い方がいいので、気持ちが焦るけど、ここでもまだまだできることはあるんだよね。まずはベッドを90度まで立てられるようにならなきゃ。  管が取れれば随分楽になるだろうし、一日の中に「三度の食事」というイベントが加わり、「味覚」という楽しみができれば生きるはりも出るというもの。ベッドを90度まで起こせるようになったら車椅子に挑戦しよう、という話も出ているし、来週はもっと元気になってくれているといいなぁ。

     (1999/2/10)

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